| タイトル |
日 時 |
記憶の糸
少し埃を被ったような薄汚れた古いアルバムを抱え、夫の居る病院に行ったのは3日前だった。
アルバムの中の写真は全部が白黒で、中にはもう色あせたものもあった。昔のアルバムは、コーナーを糊で貼り付け、そこに写真を差しはさむようになっていたものだが、時間が過ぎて、今はほとんどのコーナーが台紙から剥がれてしまっている。その剥がれた写真の束とアルバムを夫の前に広げて見せたのだ。
彼の反応は強かった。
分厚い台紙のアルバムを繰りながら、「ああ!なつかしいなあ!懐かしいなあ!」と覗き込むようにアルバム...
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2009/07/05 21:39 |
音
夕方7時過ぎまで外が明るい時間帯になった。
ガラガラと雨戸のしまる音がいくつか聞こえ、暗い夜のしじまの間から犬の遠吠えが聞こえ、少し遠慮がちにも聞こえるトランペットの練習音が前の家からもれてくる。花金の夜はいつもより少し車の往来が多いような気もする。
TVは大好きだ。見始めると中毒のようにリモコンが手から離れなくなる。音の洪水に頭が疲れ、中毒から脱出しなければと思いながら、面白い時はつい見てしまう。少し罪悪感を感じながら・・・・・
昼間のオンタイムのニュースは臨時ニュースでもない限り...
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2009/07/04 21:06 |
嗜好
まったく!! 今朝までお皿の中にいわしがこれ見よがしに残っていた。なんと言う猫たちだ!
昨日スーパーで、いかにも活きのいいいわしを売っていたので、久しぶりに缶詰でない魚を煮てあげようと思い、1パック250円のトレーを2つ買ってきた。
夕方5時から6時になると、夕食を待って庭に勢ぞろいしている猫たちの姿はかわいいものだ。ドアを開けると大騒ぎで鳴きながら、普通はそんなに擦り寄ってこない猫たちが、現金な物で、ご飯の時だけは近づいてくる。
鍋でいわしを煮て、冷ましながらほぐし、頭のあまり固い...
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2009/07/03 14:41 |
ものの言いよう
五日市 剛さんの言葉の中に、「思いと言葉が人生を作る」と言うフレーズがある。人生は口から出た言葉通りになって行くものだ。だから決して汚い言葉を発してはいけない。五日市さんは数年前の講演の時もなんどもそのことを強調されていた。本当にそのとおりだと私は信じきっている。
狭い路地の間を楽しむように新しい道を探しながら散歩するのも折々の楽しみの一つだ。
ある家の玄関先にこんな看板を見た時、家主の心の様子が見えるような気がしたことがある。「飼い主の方へ。フンはお持ち帰りくださいますようにお願いいた...
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2009/07/02 20:07 |
うどん
太い長い水沢うどんを、父は数本まとめて箸でつかむと、そのまま口に持っていった。
以前と変わらない食べ方だ。口の中に入りきらないうどんを、くわえたままモグモグとかみ始める。先に口に入ったうどんが、喉を通って胃の中に嚥下されるまで、そのしぐさが続く。それが父流の食べ方だった。
故郷の群馬県は手打ちうどんの産地だ。
以前は田舎に行くと叔母がおいしい地粉を使った手打ちうどんを作ってくれたものだった。そのおいしさは忘れられない。いつの頃からか、うどんを打たなくなり、買ってきた少し色の白くなったう...
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2009/07/01 17:01 |
もう一人の自分
個展が近づくと、することの順番はお決まりのように、額の出し入れに始まる。
今日は朝から湿っぽくて、紙に向かって描く事はできないと決めた。墨を置く前にすでに紙がしっとりとしてしまっていて、思うような墨色が出ないのだ。12月の早朝のインドで描く時にも、同じことを感じる。
積み重なった額の山から、前回の個展の作品を出し、感心して眺めたり、今一だったなあと思ったり、こんな繰り返しが私と言う人間のここまでの人生の大半を占めていることを感じた。
その時の自分をいつも時間切れで諦めて、毎回個展をす...
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2009/06/30 21:11 |
人も人なり
癌の末期であることを知らされた時、その苦痛の中で、悟りにも似た心境に到達して、あるがままにそう遠からず訪れる死を迎え入れる準備のできる普通の人もいるかと思えば、世の中に高僧といわれた人が、末期癌の宣告を受けて、見苦しいほどに取り乱し亡くなって行ったという話を聞いたことがある。
どんなに世の中に、悟りを得たような顔をして偉大な人物と思われている人も、元をただせばみな同じ人間である。むしろ、危険なのは世の中の評価かも知れない。市井の、何気なく普通に暮らしている人の中に、神々しいような光を放ち、...
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2009/06/29 18:33 |
お誕生日おめでとう!
今日は夫の75歳のバースデー。何かお祝いの気持を伝えたいと思っていた。夫にそれが判らないかもしれない、判るかもしれない、でも、その瞬間瞬間に実感があればいいと思った。
友人を誘って病院に行った。
彼女はプリン、シュークリーム、サクランボを持参してくれた。私は私でプリンを買い、タッパーにメロンをカットして持ち、魔法瓶にインドのシナモンティーを作って持参した。
エレベーターを降り、病棟のホールの中をガラス越しに夫を探すと、元気そうに私たちを見てニコッと笑った。
同伴した友人の顔を見て、...
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2009/06/28 20:32 |
スーパーおばさん
今夜は幾分眠そうな目をしていた。聞いてみれば、夜の九時は、彼女がラジオ深夜便を聞くまでの間の、仮眠の時間だった。それにしても元気な75歳だ。少し曲がった腰をかがめながら、私に励ましの言葉を残して東京に帰っていった。 今夜も彼女はラジオ深夜便を聞くのだろう。
「お気に入りのアナウンサーがラジオの向こうで正装して喋っているのに、ゴロンと横になって聞くなんて申し訳なくてできないわよ〜」「へえ!それじゃあ夜は寝ないわけ?」「ウトウト時々寝てるのよ!」「でも、寝巻きには着替えないの?」「家に帰ったら...
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2009/06/26 22:42 |
遍歴の人生
大学を卒業した年、不思議な縁に結ばれた数人の友人と、「おおばこ」と言う会を作った。初めのころは一緒に旅をしたり、ノートを回して近況を綴ったり、それにコメントを書いて回覧する日々が続いたが、それぞれの人生に忙しくなってから、ノートは私の手元で止まり、行き来も少なくなった。とりわけ一人だけ独身だったMさんは、ほかのメンバーとはいつも距離を置くようになってしまった。
数年ぶりで彼女から電話が来たのは一月ほど前になる。定年のなかった会社に来年から定年制がしかれ、自分がその第一号になるのだと言ってき...
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2009/06/25 23:13 |
手紙・親愛なる子供たちへ
今,ポストマンライブとして静かなブームになっている樋口了一さんの「手紙」と言う歌がある。
老いた親から、子供に語りかける胸の篤くなる詩が並ぶ8分ほどの長い曲だ。友人からこの歌のことを聞いたのは2週間ほど前になる。初めて彼の語りと歌を聞きながら、私は涙が止まらなかった。
体が思うようにならなくなり、粗相をし、同じことを繰り返して話し、てこずらせることがあっても、どうか温かく見守って欲しい。祈って欲しい。私の人生の終わりに、少しだけ付き添って欲しい、私を理解し支えてくれる心だけを持っていて欲...
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2009/06/24 21:16 |
先生様
もうずっと昔、通勤電車の中で人間をスケッチして展覧会をやったサラリーマンの記事を読んだことがある。
Oさんは電車の中ではないが、身の回りの日常風景の人物をずっと描いていた。公園で遊ぶ親子、病院の待合室で待つ人のスケッチ、Oさんの大好きなカラオケしている人たち、葉書にすらすらとその人物を書き上げ、色を入れると、なんとも温もりのある絵が出来上がった。
その、Oさんから、今日、三人並んだ人物の絵手紙が届いた。退会の申し出だった。
Oさんは広島原爆の被爆者である。長い間さまざまな被爆症状に苦し...
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2009/06/23 20:39 |
過去と語る
久しぶりに朝、仏壇の前に座った。気持ちがほっとした。
なぜかこのところ数日、朝のお勤めができなかった。時々、怠け心が起きるときもあるが、それが原因だったわけでもない。なんとも言いようのない清清しい気持ちがした。仏壇の扉を開け、灯りをともし、お線香に火をつけ、目の前にある過去帳に目をやると、今日は叔母の命日だった。人のいい本当に優しい人だった。叔父の奥さんだったが、子供のころから一番お世話になってきた叔母だった。
叔父は今も健在だが、叔母は早くに亡くなってしまった。
ヘビースモーカーだっ...
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2009/06/22 20:50 |
千客万来
将棋の番組を見、遅い朝食をしてから一日中、椅子に座ってNHKのエコに関する番組を見ていた父。
午後、友人がデザートを作って届けてくれた。彼女と3人でお茶をして、しばらくしゃべって帰ったあと、入れ替わるように別の友人が私の好きなポテトのおかずを作ってもってきてくれた。
父はその友人ともしっかりと話をし、夕食を一緒にしようと勧めたものの、用があるので次回・・・・・・と言うことになり、しばしまたお茶をして彼女も帰っていった。
それから10分もしないうちにまた別の若いお嬢さんがお野菜をたくさ...
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2009/06/21 21:06 |
タクアンの音
父が床に付いた。やっと静かな時間が戻った。なんと言うことはなく、目が離せない一日、床に付いてくれるまでは自分のことに集中はできない。今晩もう一晩・・・・・居間のソファーに寝るつもりだ。
背中も痛い。平らな寝床のありがたさを感じる。
夕べは私に付き合って、最長老の猫がずっと傍でソファーに寝ていた。猫も体が弱って心もとなく、私のそばに居たいのだろう。老いると言うことはみんな同じかもしれない。
久しぶりの快晴で、洗濯機を三回も回した。今朝、トイレに山のようにあった汚れ物、急いで父の布団をめ...
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2009/06/20 21:36 |
生きてゆく道
私の周りの若い人たちがみんな風邪を引いている。ひどい熱と下痢に悩まされているようだ。
私も知らない間に風邪に罹っていたようで、朝から気だるく、午前のお稽古を終えるなり寝床にダウンした。気が付いたら夕方の5時に近かった。
腹時計が教えるらしく、猫たちが朝夕は人を起こしに来る。おかげさまでころあいに起きてまず猫のご飯を準備し、外にお皿をもって出ると、メンバーが勢ぞろいして待っている。それぞれの性格に応じた待ち構え方がいとおしい。
近頃は、どこかの家の首輪をつけた飼い猫も、自宅であまり構わ...
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2009/06/18 22:33 |
誕生会
病院の認知病棟の入り口は鍵がかかっている。
二つある大きなドアの上半分は中の様子が見えるように大きなガラスになっている。一階からエレベーターをあがり、鍵のかかったそのドアを開けてもらうためのボタンを押す前に、いつも私は期待と不安の両方を抱えて覗き込むように中を見る。
その日その日で様子の変わる夫が、今日はどんな状態で居るだろうかと思いながら、来訪を告げるのだ。
今日は、父を訪ねて来た兄と一緒に病院にいった。
一昨日行ったばかりなのに、ずいぶん久しぶりだなあと言われた。たぶん、毎日行っ...
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2009/06/17 17:33 |
溜飲下がらず
車の事故でぶつかった時の、あのドスンと言う瞬間の感触と言うものは、いつまでも体に不快な記憶を残す。
それと似た思いが、交通違反でつかまった時にもある。昨日だった。
最近は違反で捕まらないように気をつけていたが、まさかと思うような田舎の道の小さな路地で、いったん停止をしなかったといって切符を切られてしまった。腹立たしいのは、警察は、違反をしないように注意して回るのでなく、捕まえることに快感を持っているように見えることだ。もうじき、夏のボーナスの時期になる。だから違反を見つけてお金を稼ぐのだ...
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2009/06/16 20:29 |
時を経て
富山空港の空はどんよりとしていた。いつも雨雲が垂れ込めたような空が多い北陸は、昨日も今日も暗かった。羽田空港で出発を待つ間も、富山空港に降り立って歩く時も、車椅子を引く相手が居なくなった一人の時間が、置き忘れた荷物のようにポッカリとしていた。虚しいと言うのでもなく、悲しいと言うのでもなく、時を経て変わり行くことの人生の無常であったかもしれない。
富山と縁ができた翌年、義理の妹が癌で亡くなった。47歳だった。それから数年後、もう一人の妹の連れ合いがやはり癌で亡くなり、姑も癌で亡くなり、夫の兄...
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2009/06/14 23:20 |
結ばれる縁
今日は、長田順海先生の命日に当たる。前から約束してあったとおりに、、11時にはお墓に伺い、気の合ったお檀家さんの何人かと一緒にお昼を頂き、長田先生の思い出に花が咲いた。
お墓の前で手を合わせながら、「千の風になって」の歌ではないが、先生が、いつもそばにおるよ・・・・・と言われたような気がした。そうだ、もうお寺に来る機会も少なくなってしまったが、別にお墓にこなくても、先生はいつも一緒だと確かにそう思える何かが感じられた。
去年の3回忌の命日の後にも行った熱海のレストランを、今年も予約して...
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2009/06/12 23:10 |